七月のお念仏の会  第306回

お盆の季節が来るとよく出てくるのが河村瑞賢の成功話です.伊勢の貧農に生まれた瑞賢は一旗揚げようと十三才の時江戸に向かって旅立ちました.数年間頑張りましたが、その生活はいっこうに変わりませんでした.そこで瑞賢は今賑わっている上方に行ったらうまく行くのではないかと考え、京に向け出発しました.小田原の宿で、ある僧と出あいました.この僧曰く”京に行く事はなりません.江戸の人情、風俗を学び、地理や商法も知っているのにもうける事が出来ない、そんな人間が何も知らない京都で何が出来る、さっさと江戸に帰りなさい。今まで覚えた商法をもとに、新たな考えを入れて頑張りなさい”と。それを聞いた瑞賢は”そうか、私の考えが足りなかった.見知らぬ京都に行けばまた第一歩から始めなければならない.帰ってもう一度努力しよう”と,元来た道を取って返した.八月の暑い太陽の中、品川まで来たとき、瑞賢の目に珍しい光景が飛び込んできた.海辺に瓜や茄子、大根、カボチャ等の夏野菜が打ち寄せられているではないか.しばし考えていた瑞賢の脳裏を一閃の思いがかすめた.これらは精霊棚にお供えした先祖供養の為の野菜であり、別に不浄なものではない.そこで瑞賢は浮浪者を集め、小遣い銭を与えてそれらを集めさせた。それはかなりの量になった.早速空き樽を数本買い塩漬けにした.わずかな資本以外は瑞賢の労力だけであった.販売先を塾考した結果、方々の普請場に的をしぼった.労働者を客にして安く売った.これが労働者の口にあって、瞬く間に売れ尽くしてしまった.意を得た瑞賢は新たに材料を仕入れ、調味加減を改良して、再び普請場にかついで行った.面白い程よく売れた.瑞賢のこの着想に目をつけた代官は人足の取り締まりとして採用した.瑞賢が豪商として成功する第一歩であった.お盆はご先祖をお迎えし、お供物をお供えして供養する時です.人は瑞賢の様に常にアンテナを張り巡らしながら、緊張感を持って日々生活したいものです.