九月のお念仏の会   第329回

八月が夏休みだったため、二ヶ月ぶりのお念仏の会となりました。今日は私の大先輩の土屋光道先生のお書きになった”花開いて仏を見たてまつる”という本の中からお話しします。
今、日本は世界に誇る長寿国になりましたが、古い時代は非常に短命でありました。だから若い時から死に望む覚悟があったのです。臨終ということを人に言い、自分にも言い聞かすことをたしなみとしてきたのです。現代は長寿になったせいで、臨終はまだまだ遠い先のことと考え、先延ばしにしているのです。しかし、人生においても、お芝居においても、フィナーレ、最後の幕引きはとても大切なことなのです。そこで”臨終は我が家で”というお話をします。私も大変お世話になっている田中正道氏のお母様についてです。体調をくずして入院なさったのですが、なかなか良くなりません。良くなるどころかその後危険な状態に陥りました。ところが母上はどうしても家に帰りたいと再三仰います。そこで主治医にその旨話したところ、『とんでもない、お母さんを殺す気ですか。お坊さんともあろう人が、一体命というものを何と心得ているのですか。現在三度の食事も喉を通らず、二十四時間点滴をして酸素吸入もしている。そんな人をうちに連れて帰ったならば、三日ともちませにんよ。保証します。』と、こう言われてしまいました。ところがお母様がどうしても帰りたいというので、院長先生に相談したところ、そこまで強い思いであればよろしいでしょうと、お許しが出ました。家に帰って寝床へ連れて行こうとしたら、ご本堂の阿弥陀様のところへ連れて行ってと言われました。本尊様の前で小さな声でお念仏をお唱えになったその姿は、それはそれは嬉しそうだったそうです。医師から三日と持たないと言われていたことからも、家族みんなが緊張しながら看病にあたりました。最初は夫婦二人だけで頑張っていましたが、その大変さを見て子供たちも懸命に看病してくれました。そのおかげでしょうか、三日と言われた命が3ヶ月以上もちました。これが仏様のご加護なのでしょうか。しかし子供さんたちにはこれ以上ない教育ができたのではないでしょうか。こちらが本当の仏様のご加護かもしれません。